「好き」とは
僕にはもうすぐ付き合って3年になる彼女がいる。
けど、その子のことが本当に好きなのか、ここしばらくわからなくなってきている。
実は恥ずかしながらこの子は僕の初めての彼女で。
今まで彼女が欲しくなかったとかではなく、僕が純粋にモテなかったのだ。
学生時代は全力で勉強しかしておらず、あまり女の子と遊んだりするようなことも無かったのだが、どの時期も友達自体は多かったのがちょっとした僕の自慢ではあるのだが。
なんせ女の子に異性として見てもらえなかった。「モテそうなのにねー」などとよく言われたがそういう子に限って彼氏がいるのだ。
そんな学生時代を経て、家が厳しすぎた反動からか「遊ぶ」ということをしてみたくなった。
居酒屋でバイトをしながらバイト先のチャラ目な先輩にナンパやクラブでの遊び方を教えてもらった。なんせ反動が凄かった。
そんな夜遊びを1年ほどしていたのだが、僕に彼女はできなかった。
彼女どころかクラブで意気投合した女の子とのワンナイトすらできていなかった。
こういうことをしたことがある人にはわかると思うのだが、これは本当に考えられないほどの残念な結果なのだ。
見た目は割とウケは良い、性格も誰とでも仲良くなれる。それなのに1年間遊び続けても何故か僕は童貞のままだった。
思春期真っ盛りの頃からずっと溜まっていたものに初めて向き合い、厳しい家を出て1年間もバカをし続けたのに。
その頃にはどこで誰と話しても「絶対モテるじゃんー。めっちゃ色んな子と遊んでるでしょ?」と言われるようになっていた。
そうか、日頃の行動は見た目にも出てしまうのかと思ったりもしたが、そんなことより女の子と遊ぶということだけができていないことがどんどん自分の劣等感を強めていった。
そんな流れもあり、もう僕の中では「好き」などという感情は全く必要としておらず、ただただ「彼女」という自分のことを欲してくれる、必要であると言ってくれる存在が欲しいという考えしか無くなっており、少し仲良くなっただけの子にも片っ端から告白しては振られていた。
これほど上手くいかなかった理由として今になって俯瞰で考えてみると、セックスということをしたことが無く、無かったが故にそういう雰囲気になってもちょっとした強引さも出せないという女の子慣れしてなさがアプローチを間違った方向にさせていたのかもしれないとは思う。本当に今になってようやく気付いたことだが。
そうやってただただ下手な鉄砲を数だけ撃っていた中、ある時僕への反応が割と良い子に出会った。
前述した通り、もうその子のことを好きかどうかなどは関係なく、「付き合っている」という関係をただ作ってみたかった僕は猛アプローチをかけ、なんとかその子と「付き合う」ことができた。
何を隠そう、その子が今も付き合っている彼女だ。
その時は何かに追われているような感覚で女の子を血眼になって探し回っていたとはいえ、こんな失礼な流れあるか?とは自分でも思う。
ただ、ここからがもっと彼女に対して失礼で、世間、特に女性を全員敵に回すような発言になると思う。
彼女は付き合い始めた頃からあまり愛情表現をしない子だった。
セックスは好きなのに自分からは一切誘ってくることもないまま3年目も中頃の今に至る。
そして僕は未だに「好き」という感情がよくわからないままでいる。
何度も言うがこの子は僕の初めての彼女であり、唯一セックスをしたことがある子だった。
ただ、僕は彼女とのセックスであまり気持ち良さを感じたことが無かった。
その悩みがずっと頭に付き纏っていた。
だからこそ、他の女の子を1人も知らないままずっと燻っていた僕は「普通」というものを知りたくて仕方がなくなっていた。
「普通」男が絶対に誘うものなの?
「普通」彼女という存在でも愛情表現はそんなにされないものなの?
「普通」セックスって気持ちいいの?
そんな思いが頭を飛び回るようになるにつれて彼女への想いがどんどん薄れていっているのを実感していた。それがとても怖かった。
「好き」って何なんだよ…。
ただ、彼女は性格もよくできた子なのは間違いないし、これだけ長く付き合っているがまともな喧嘩は一度もしたことが無かった。
愛情表現もわかりやすくするタイプでは決してないが、気持ちはある程度伝わってきている。
色んな面を考えても本当によくできた子だし、将来もし結婚などすることになるのであればこんなできた子がいいなと思えるような子なのだ。
だからこそ。僕は世間の「普通」というものを余計に知りたくなった。
僕たちの生活が「普通」なのであればいくら彼女が僕が求めるより刺激が少な目であったとしても、セックスが気持ちよくなくても、それが正解で「普通」なのだから。
どの女の子と同じことをやってもそうなのであれば胸を張って彼女だけを見ることができると思った。
そういう思いで彼女には悪いと思いつつ彼女との全てを「肯定」したいという思いで色んな方法で色んなの女の子と会ってきた。
だが、これは少し考えれば分かることではあるのだが、100人の女の子がいれば100通りの考え方や生き方がある。
会えば会うほど「普通」などというものが存在しないのだということに気付いた。
そして、それと同時に僕は彼女以外とするセックスではちゃんと気持ちよくなれるということを知ってしまった。
体の相性?そんなピンポイントで彼女だけ合わないなんてことがあるのか…?
これに気付いた時は本当にショックを受けた。
そして、そのことで余計にこの彼女とこれからも一緒にいるべきなのかと考えさせられた。ときめくことも無ければこれからずっと気持ちよくもないセックスをし続けなければいけないのかと考えるととても辛い気持ちになった。
そんな中ある時少しときめきを感じることができた子と出会えた。いや…出会ってしまった、と言う方が適切だろうか。
生まれてから感じたことなのない感情が自分の中で芽生えているのを感じた。
初めて女の子の方から気持ちを伝えてくれて、付き合いたいなんて言ってくれている。
一緒にいて楽しい。相手も僕を何より大切にしてくれている。そしてその子とするセックスだと満足できるのだ。
でも、僕には今「彼女」がいる。
ある上司には「別れたら良いんじゃない?初めての彼女なんて誰でもこの子以上の子はいないって思うものなんだよ。その後の子とはみんな惰性で付き合うことになるけど逆にその方が公平に判断できるよ」と言われ妙に納得してしまった。
確かに一緒に過ごしている時間が心地良いのは間違いないのだが、それは初めての彼女であるということから生まれている感情にすぎないということを否定できないのだ。
だが、僕は簡単には「別れる」という選択肢をとることができない。
彼女は20数年間生きてきて初めてできた彼女だから。
今まで「別れる」という経験をしたことが無いから。
怖くて怖くて仕方がないのだ。
「別れる」とはどういうことなのか。彼女は悲しむのだろうか。理由を聞かれたらなんて答える?
今になってはアプローチをすれば色んな子と会えるようになったとはいえ、あまりにもモテなかった劣等感から怖さのあまりこの関係性を壊すことができないのだ。
「好き」って何だよ。
「好き」って思わせてくれよ。
お前しか見れないって思わせてくれよ。
これは間違いなく僕のわがままな想い。
知ってる。よく知ってる。
僕はこれからどうしたらいいのだろうか。
ずっと彼女に内緒でその子と会い続けるわけにはいかない。もちろんどちらか選ばなければいけないことぐらいわかっている。
けどそれは、そんな言葉で軽く解決できるような話ではない。
もう付き合って3年。僕と彼女の人生に少なからず影響を及ぼす判断になるのだろう。
付き合ったり別れたりというものはそういうものなのだろうなと最近考えることが増えた。
あなたは本気で人を好きになったことはあるだろうか。
もしあるのであれば、それは一体どういう気持ちなのだろうか。
誰かを心から愛せるようになれたら幸せだろうな、なんて考えながら今日も倫理に反した行動を取っている自分に嫌気が差す。
僕はいつ「クズ」から抜け出せるのだろうか。